2008年05月01日

アブデル・ラハマン・エル・バシャ ピアノ・リサイタル

[クラシック倶楽部を楽しむ] 本日のプログラム

[NHK BShi 4月23日放送分]

アブデル・ラハマン・エル・バシャ ピアノ・リサイタル

(演奏曲目)

  ラヴェル 「鏡」
  ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」作品33
  エル・バシャ レバノンの歌

(会場)

  東京文化会館 小ホール
 (2007年4月12日収録)

[所感]

本日の「クラシック倶楽部を楽しむ」は、アブデル・ラハマン・エル・バシャのピアノ・リサイタルです。

エル・バシャは1978年にエリザベート王妃国際コンクールで優勝したときには19歳という若さだったそうです。

今の若者たちですと、オーディションで優勝をすればすぐにスポンサーがつき、プロダクションや後援会がお膳立てをして世界中を駆け回り、華やかなデビュー演奏会に明け暮れるところですが、エル・バシャは優勝後も音楽研究と演奏曲目を広げることに時間を費やし、音楽家としての造詣をさらに深めていったということです。

現在50歳にさしかかろうとしているエル・バシャの凄さというのは、大事な時を自分の音楽性を育てる時として費やしたところにあるのではないでしょうか。

また、エル・バシャは若い時からフランスの文化にとても興味を持っていたといいます。

彼の音楽性はフランスで修業を積んだことにより、ある意味ではとてもフランス的です。

ですから、最初に演奏したラヴェルの「鏡」は本当に素晴らしいフランス派的なピアノの響きになっていたと思います。

エル・バシャは若くして大成を遂げたのち、自分の心の中でいろいろな情景描写をすることを学んだのだと思います。

ひょっとしたら、エル・バシャは絵筆をとっても優れた天分を持っているのかも知れません。

蛾〜悲しい鳥〜海原の小舟〜道化師の朝の歌〜鐘の谷、と演奏していくエル・バシャは、単に静止した絵画を描いて見せるのではなく、蛾は飛びまわり、鳥は力なく羽ばたき、海は荒れて小舟を木の葉のように揺らし、道化師はおどけて見せてスパニッシュな歌を歌っているように、動くシーンを見せてくれました。

最後は、谷間に響き渡る鐘の音と、静かに祈りを捧げる人々の姿を静止画のように演奏して終わりました。

エル・バシャのピアノは、まるで映画で情景を映して聴く者を自分の世界に誘い込んでいくような魔力を持っているのでしょう。

このことは、次のラフマニノフの練習曲集「音の絵」作品33でも同じでした。

1:ヘ短調〜2:ハ長調〜3:ハ短調〜4:ニ短調〜5:変ホ短調〜6:変ホ長調〜7:ト短調〜8:嬰ハ短調、という8曲の編集によって演奏されました。

エル・バシャは、ラフマニノフの「音の絵」に出てくる曲の一つずつに、自ら絵筆をとって絵を描いて行くように演奏していきます。

1曲目:短調らしくない勇壮な行進をしている人々を描いて「音の絵」の幕開け。

2曲目:絶えずきれいな水をたたえて流れる谷川。

3曲目:春が来て、冬眠から目覚めた動物たちが動き出す。

4曲目:ピエロの形をした人形がぎこちなく躍り出す。

5曲目:強い風に身を任せて飛び回る一枚の落ち葉。

6曲目:町の市場の活気と喧騒の中を歩き回る。

7曲目:夕暮れのひんやりとした風の吹く中を歩いて行く人影。

8曲目:工場の中で人々が働いている。

エル・バシャの演奏を聴いているとこのような風景が浮かんできました。

エル・バシャはピアノを演奏しながら自分でも歌を歌っているように見えて、その歌が曲の情景となって聴く者の心に浸透してくるように思えました。

自分でも作曲を手がけているのでとても語り上手なのです。

最後には、アンコールとして自作の「レバノンの歌」を演奏しましたが、中東的な旋律のとてもかわいらしい曲で、即興的に作られたものではないかと感じました。

エル・バシャは、19歳でタイトルを獲っても、すぐには忙しい演奏活動をせずに自分の音楽を高めることに専念したということですが、ある意味では完全主義者的な人間性を持っているのかも知れません。

視聴者はいつも自分勝手ですから、本日のなるほど、と納得してしまうようなエル・バシャの演奏を聴くと、どうしても19歳当時のエル・バシャの瑞々しい演奏にも思いを馳せてしまいました。

本日の「クラシック倶楽部」は、完成の域に達したアブデル・ラハマン・エル・バシャのピアノテクニックとその音楽性の素晴らしさに接して、絵を見るような音楽体験ができ、本当に楽しいひと時でした。

以上、「クラシック倶楽部を楽しむ」でした。
posted by クラシックマ at 00:26| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック倶楽部を楽しむ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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