2008年04月28日

野平一郎 & ジャン・イヴ・ティボーデ

[クラシック倶楽部を楽しむ] 本日のプログラム

[NHK BShi 4月21日放送分]

野平 一郎 & ジャン・イヴ・ティボーデ

<プログラム1>

  ピアノ 野平 一郎

(演奏曲目)

  シューマン クライスレリアーナ 作品16 から
           第1曲、第4曲、第5曲
           第6曲、第7曲、第8曲

(会場)

  東京文化会館 小ホール
  (2007年5月24日収録)

<プログラム2>

  ピアノ ジャン・イヴ・ティボーデ

(演奏曲目)

  シューマン 交響的練習曲 作品13

(会場)

  紀尾井ホール
  (2007年9月11日収録)

[所感]

本日の「クラシック倶楽部を楽しむ」は、NHKの「クラシック倶楽部」のアラカルトから、野平一郎とジャン・イヴ・ティボーデの2人のピアニストがそれぞれシューマンの作品を演奏するという企画になっています。

さて、野平一郎と言えば、ジャン・ギアン・ケラスのベートーベンのチェロ・ソナタの演奏で共演して、その確かなベートーベン解釈によりケラスのチェロを一段と引き立たせていたのを思い出します。

野平のピアノは音色に特徴があり、もしもケラスのチェロがあれほどまでにダイナミックに響かなければ、野平のピアノに負けてしまっていたのではないか、と思ったほどでした。

野平がソロを演じたときにはどんなふうになるのかということは、とても興味のあったことなので、今回のシューマンの演奏は野平を知る上で又とないチャンスではないかと思います。

ところで、野平の演奏するシューマンの「クライスレリアーナ」は1838年に作曲された8曲からなるピアノ曲集ですが、作家であったホフマンの書いた音楽評論集の題名が引用されているということです。

シューマンからショパンに献呈されたのですが、酷評を受けたという逸話も残っているようです。

クライスレリアーナには、シューマン独特の登場人物に役割を与えて全曲を一貫するモチーフや曲想を配置するような作曲法が織り込まれているということで、聴く者にとっては難しい作品なのかなと感じていましたが、野平が演奏を始めるとそんなことはどうでも良くなってしまいました。

NHKの編集で、8曲のうち第2,3曲はカットされていましたが、野平の演奏は1曲ごとに情景描写をつけているようで、カットされたことなどには関係なく、1曲1曲がそれだけでとても美しいのです。

野平のピアノタッチから生まれる透き通った繊細で粒ぞろいの音色は、往年のバックハウスのピアノの音色に近く、本当に“魂の入ったピアノの音色”と言うべきかもしれません。

野平は作曲家でもあるということもあって、シューマンの旋律に自分のモチーフを重ね合わせていたのではないでしょうか。

第1曲:岩にぶつかりながら流れ続ける谷川のように。第4曲:静かな沼の水面に雪が降っている風景。第5曲:寒い冬が終わり、春の気配を感じる沼で、カエルや虫たちが活発に動き回る。第6曲:夕暮れになって、生き物たちが巣に帰り静かになった情景。第7曲:夜明けになって動物たちが目覚め、リスたちが追いかけっこをしている。第8曲:やがて人間たちも目覚め、子供たちは遊びまわり、大人たちの生活の営みも始まる。

野平のピアノの音色はますます美しく、シューマンの作品があたかもその後の印象派のモチーフによって表現されているように思えてしまいます。

クライスレリアーナはどのような解釈で聴かねばならぬ、などという気持ちは野平のピアノ演奏によってすっかり昇華されてしまって、素晴らしい音楽体験の世界に入ってしまいました。

野平は、日本のピアニストの中でも円熟期を迎えた貴重な演奏家の一人であると思いました。

さて次は、ジャン・イヴ・ティボーデが演奏するシューマンです。

ティボーデはフランスのリヨン出身のピアニストで12歳のときパリ音楽院に進んで3年後にはパリ音楽院の首席になったということです。

その後、18歳でニューヨーク青年音楽家オーディションを制覇し、現在はアメリカで活動していて、クラシックから現代音楽までを演奏する一方、ジャズやポップスの領域にも演奏活動を広めているそうです。

金髪で端正な容姿のティボーデはデザイナーズ・ブランドでしょうか、とてもお洒落な衣装を着て登場しました。

シューマンの交響的練習曲は版がいくつかあるようですが、ティボーデは、主題+12の練習曲+5つの遺作変奏曲、の全18曲を演奏しましたので、1890年にブラームスが校訂を加えた第3版によっていたものと思います。

ティボーデによって演奏された遺作は、練1〜遺作1〜練2、練5〜遺作3〜練6〜遺作2〜練7、練9〜遺作4〜練10、練11〜遺作5〜練12のような順序になっていました。

ティボーデは外見が派手に見えるので、かなり派手な演奏になるのかなと思っていましたが、演奏が始まると全く予想が外れました。

ティボーデの交響的練習曲は、5曲の遺作変奏曲を配置するところから綿密に計算しつくされていて、堅実で本当に細かいところまで神経が行き届いた演奏をしました。

特に1曲ごとにペダルの使い方が吟味されていて、変奏の姿自体が面白い上にさらにペダル操作で変化をつけているところは、実に見事としか言いようがありません。

そういう意味では、シューマンが考えていた音楽づくりを、ティボーデの演奏がさらに発展させていたように思え、まさにティボーデの交響的練習曲になっていたと感じてしまいました。

これは、ティボーデのレパートリーとジャンルの広さから創造された、現代のシューマンの音楽ではなかったかと思います。

本日の「クラシック倶楽部」では、野平一郎という円熟期に達したピアニストのシューマンの演奏と、ジャン・イヴ・ティボーデという堅実で幅の広いピアニストのシューマンの演奏を聴き比べることができて、とても興味深いものがありました。

以上、「クラシック倶楽部を楽しむ」でした。
posted by クラシックマ at 02:51| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック倶楽部を楽しむ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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